そもそもアトピーとは?
うー、かゆいかゆい・・・
シバイヌくん、どうかしましたか?
カモノハシさん!
最近、肌がかゆくてねえ。
たぶん、アトピーだと思うんだけど。
そうなんですか、かゆいのは辛いですよね。
ところでシバイヌくんは、アトピー、あるいは「アトピー性皮膚炎」ってどんな病気か知っていますか?
うーん、そう言われると、うまく説明できないな。
そもそも、自分がアトピーなのかどうかも自信がなくなってきた・・・
なるほど。
それなら良い機会なので、今回は「そもそもアトピー性皮膚炎とはなにか」について、一緒に見ていきましょう!
「アトピー」って、どういう意味?
「アトピー(atopy)」とは、ギリシャ語の「a-topos」という言葉に由来します*1。
意味としては、「場所が特定されていない」、「とらえどころのない」、「奇妙な」、といったところでしょうか。
アトピー性皮膚炎の歴史は意外に古く、その症例は古代までさかのぼることができると言われています。
とは言っても、少なくとも 20 世紀の中頃までは、それまでに知られていた皮膚病のいずれにも似ていない、かゆみのある湿疹を伴った奇妙な皮膚疾患として、様々な病名がつけられていました*2。
そのような中で、アメリカの著名な皮膚科医であったザルツバーガー氏は 1933 年に、それまで報告されてきた症例を「アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)」と総称し、この名称が今日まで世界中で使われるようになりました*3。
「とらえどころのない」って・・・
そんな病名、あるのね。
そうなんです。
患者さんごとに症状や経過が様々だったため、具体的な疾患名を付けるのは難しかったのかもしれませんね。
日本皮膚科学会によるアトピー性皮膚炎の定義
それでは、日本においては現在、アトピー性皮膚炎はどのような疾患と考えられているのでしょうか。
日本皮膚科学会が作成した『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018』*4によると、アトピー性皮膚炎は以下のように定義されています。
アトピー性皮膚炎は,増悪と軽快を繰り返す瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり,患者の多くは「アトピー素因」を持つ.
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018. 日皮会誌 128 (12), 2431 - 2502, 2018
うーん、難しい・・・
どういうことだろう?
「増悪(ぞうあく)と軽快を繰り返す瘙痒(そうよう)のある湿疹」とは、「症状がひどくなったり、よくなったりするのを繰り返す、痒み(かゆみ)を伴う皮膚の炎症」という意味です。
アトピー性皮膚炎とは、このような皮膚の炎症を主な症状とする皮膚の病気というわけです。
なるほど、たしかに良くなったり悪くなったりするから、やっぱり僕はアトピーなのかも。
でも、アトピー素因って言葉は今まで一度も聞いたことがないなあ・・・。
これはいったい何だい?
アトピー素因(そいん)
「素因」とは、その病気にかかりやすい素質のようなものです。
実は、アトピー性皮膚炎の患者さんの多くが、次のような「アトピー素因」を持つと考えられています。
① 家族歴・既往歴
(気管支喘息,アレルギー性鼻炎, 結膜炎,アトピー性皮膚炎のうちいずれか,あるいは複数の疾患)
② IgE 抗体を産生しやすい素因
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018. 日皮会誌 128 (12), 2431 - 2502, 2018
① 家族歴・既往歴
「家族歴(かぞくれき)」は「家族が過去にかかった疾患」、「既往歴(きおうれき)」は「本人が過去にかかった疾患」という意味になります。
カッコ書きで挙げられている、気管支喘息(きかんしぜんそく)、アレルギー性鼻炎(花粉症も含む)、結膜炎(けつまくえん)、アトピー性皮膚炎は、いずれもアレルギー性の疾患として知られていますね。
つまり、これらのアレルギー性の疾患に、家族や本人が過去にかかったことがある場合、「家族歴・既往歴がある」ということになります。
そう言えばママは「子供の頃にアトピーで苦しんでいたことがある」って言ってたな・・・
なるほど、そうするとシバイヌくんは「家族歴あり」ですね。
「アトピー素因を持っている」ということになります。
② IgE 抗体を産生しやすい素因
家族歴と既往歴については分かってきたけど、「IgE 抗体を産生しやすい素因」がまったく分からない・・・
抗体って?そもそも、「IgE」 の読み方が分からない・・・いげ?
「IgE」 は、そのまま「アイ・ジー・イー」と 読みます。
聞き慣れないアルファベットに戸惑うかもしれませんが、順を追って説明していきますね。
からだの中には、侵入した異物に対処するための「免疫(めんえき)」と呼ばれる仕組みがあり、この中で大切な働きをするのが抗体(こうたい)というタンパク質です。
ある異物が体内に侵入すると、その異物だけにくっつくことができる抗体が体内でたくさん造らます。
すると、同じ異物が再び侵入しても、予めつくられた抗体が速やかに異物にくっついて、これが目印となって免疫細胞が集まり、異物を排除しようとするんです。
これが抗体による免疫の仕組みで、この抗体がくっつく異物のことを抗原(こうげん)と呼びます。
なるほど。抗体って、からだを守るために大切なものなんだね。
ところで、IgE 抗体っていうのは、普通の抗体と何が違うの?
IgE (アイ・ジー・イー)抗体とは、抗体の中でもとくに、ダニ、カビ、動物の毛や皮膚、花粉などのタンパク質が抗原として体内に侵入した場合に造られる抗体で、1966 年に日本の石坂公成(きみしげ)氏によって発見されました*5 。
IgE 抗体も、他の抗体と同じように、免疫に欠かせない抗体です。
しかし、IgE 抗体が必要以上に造られてしまうと、からだの中に侵入してもそれほど問題のない抗原に対しても、免疫が必要以上に働き、排除しようとしてしまうんです。
結果として、喘息では咳(せき)や痰(たん)、花粉症ではくしゃみや鼻水、目の痒み(かゆみ)などが症状として現れます。
こうした過剰な免疫が原因の疾患を「アレルギー」と言います。
つまり、IgE 抗体はアレルギーとの結びつきが強い抗体と言えます。
そして、アトピー性皮膚炎の患者さんの血液中では、IgE 抗体の濃度が非常に高いことが知られていて、それゆえにアトピー素因のひとつと考えられているわけです。
ということは、血液中の IgE 抗体の量が少なかったら、アトピーではないってことでいいのかな?
それが、必ずしもそうとは言いきれないんです。
中には、IgE 抗体の量の増加が認められないアトピー性皮膚炎もあるんですよ。このあたりが、アトピー性皮膚炎の難しいところですね。
アトピー性皮膚炎?と思ったら皮膚科専門医へ!
カモノハシさん、それで実際のところ、僕はアトピーなのかな?
シバイヌくんの症状は、アトピー性皮膚炎の可能性があると思いますが、アトピー性皮膚炎と診断できるのは医師だけです。
よって、皮膚科専門医の診察を受けてはどうでしょうか?
皮膚科専門医とは!?
皮膚科専門医とは、日本皮膚科学会が設けている皮膚科専門医制度において、言わば皮膚科のプロフェッショナルと認定された医師のことです。
皮膚科医の中でも、日本皮膚科学会に5年以上所属し、かつ皮膚科の指導医のもとで5年以上の研修を終え、試験に合格した医師のみが認定されます。
学会に所属し、診療ガイドラインや最新の研究成果に精通する医師が多いため、アトピー性皮膚炎の診療についても信頼できるでしょう。
なお、全国の皮膚科専門医は日本皮膚科学会のウェブページから検索することができます。
どこの皮膚科を受診されるか迷っている方は、ぜひご活用ください。
まとめ
- アトピー性皮膚炎の主な症状は、かゆみを伴う皮膚の炎症
- アトピー性皮膚炎は、良くなったり、悪くなったりを繰り返す
- アトピー素因は、家族歴・既往歴と IgE 抗体の量
- アトピー性皮膚炎の診断は皮膚科専門医へ
*1:Bergmann K-C, Ring J (eds): History of Allergy. Chem Immunol Allergy. Basel, Karger, 2014, vol 100, pp 81-96
*2:Nishioka, K., 2017. Evolution of Atopic Dermatitis in the 21st Century 3–10.
*3:Sulzberger MB:Historical notes on atopic dermatitis:its names and nature, Seminars in Dermatology 2:1-4,1983
*4:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018. 日皮会誌 128 (12), 2431 - 2502, 2018
*5:Saito, H., Ishizaka, T., Ishizaka, K., 2013. Mast Cells and IgE: From History to Today. Allergol Int, Allergology International 62, 3–12.