アトピーのサイエンス

アトピーについて、科学的根拠(=エビデンス)にもとづいて、分かりやすい言葉で伝えるブログです。

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エビデンスレベルとは?

カモノハシさん、たいへん!
ニュースでみたんだけど、アトピーを完全に治すことができるっていう研究成果が発表されたんだって!!

シバイヌくん、それはすごいことですね!
ちなみに、それは具体的にどんな研究だったんですか?

えーっと、確かネズミを使った研究だった気がするなあ。
でも、これでもう誰もアトピーで苦しまなくてよくなるね!

なるほど、動物をつかった研究ですか。
確かに研究結果自体は面白いものかもしれませんが、エビデンスレベルは低いかもしれませんね。

ん?
エビデンスレベルって?

エビデンスレベルとは

前回は、「科学的根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine」について説明しましたね。
ストロイド外用薬をめぐるアトピー性皮膚炎治療に関する混乱の反省から、科学的根拠(=エビデンスを重視した標準的な治療法の整備が進められ、その指針となるのがガイドラインでした。
これを参照することで、多くの医師が「科学的根拠に基づく医療」を実践できるようになったんでしたよね。

とはいうものの、ガイドラインに記載されている治療法だからと言って、そのすべてが絶対に信頼できる治療法というわけではないんです。
ガイドラインには、記載した診療指針の根拠となる研究を複数参照し、それぞれの根拠の強さを吟味する役割もあるためです。

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018*1を見てもらえれば分かりますが、実はガイドラインに記載された治療法ひとつひとつについて、その根拠となった研究結果にについてどの程度信頼できるかを示す指標をアルファベットで付記されています。
このような治療法・治療薬の科学的な根拠(=エビデンス)を支える''研究の質''のことをエビデンスレベルと言います。

エビデンスレベルの分類

それでは、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018におけるエビデンスレベルの分類を見てみましょう。
それぞれの治療法が、どのエビデンスレベルに分類されているかについても注目してみてください。

エビデンスレベルの分類

A(高い)
結果はほぼ確実であり,今後研究が新しく行われても結果が大きく変化する可能性は少ない
例 :ステロイド外用薬、プロアクティブ療法、タクロリムス軟膏、シクロスポリン内服、保湿外用剤(スキンケア)など

B(低い)
結果を支持する研究があるが十分ではないため,今後研究が行われた場合に結果が大きく変化する可能性がある
例:抗ヒスタミン薬、漢方薬、シャワー浴、ダニ抗原除去など

C(とても低い)
結果を支持する質の高い研究がない
例 :せっけんを含む洗浄剤、ボビドンヨード液、ブリーチバス療法、日焼け止めなど

なるほど、A(高い)、B(低い)、C(とても低い)の3つに分類されているんだね。
でも、エビデンスレベルを決める"研究の質"には、どんな基準があるの?

研究の手法とエビデンスレベル

ひとくちに"研究"と言っても、世の中には様々な"手法"があります。
エビデンスレベルの判断材料となる"研究の質"とは、これら"研究の手法"によって大きく決まると言えます。

では一般に、医学研究にはどのような"研究の手法"があるのでしょうか。
ここでは代表的な"研究の手法"について、"研究の質"が低いものから高いものへと、順番に紹介していきます。

専門家の意見

最近はテレビのバラエティ番組などで医師などがゲストとして登場し、美容や健康を増進する方法や、疾患の予防法について紹介するのを見る機会も増えて来ましたよね。 
こうした例は「専門家の意見」に該当します。

専門家が説明していると、もっともらしく聞こえるかも知れませんが、その主張の論拠となる研究が参照されてないことも多く、自身の経験に基づいた情報でしかない場合もあります。

したがって、"研究の質"は極めて低いと考えられます。

症例報告

「症例報告」とは、ある疾患患者の症状や経過を詳細に記述する研究手法のことです。

例えば、チョコレートを摂取したことで皮膚炎を発症した患者について、その年齢・性別・居住地などの属性や、摂取した食物の量、摂取してから症状が現れるまでの時間、具体的な皮膚炎の様子、行った治療の内容、症状の経過などを、事細かに記述し、これを学会や論文に発表した場合、これは「症例報告」に該当します。

通常は1人や数人の患者に対して行わえる「症例報告」ですが、患者に対して行った治療の効果を、治療前と治療後で比較することで、症状の原因や発症の仕組み、有効な治療法を推定できる場合があります。
こうした研究の手法は「前後比較試験」とも呼ばれています。

しかしながら、「症例報告」や「前後比較試験」は特定の患者のみに注目する性質があるため、どうしても"研究の質"は低くなってしまいます。

例えば、チョコレートを食べたことで発症した皮膚炎に対して、抗炎症作用のある外用薬を塗布し、数日後に症状が治まったとする「症例報告」が複数あったとします。
外用薬がよく効いたようにも思えますが、そもそも外用薬をわざわざ塗らなくても皮膚炎は自然によくなっていたかもしれません。

つまり、チョコレートを食べて皮膚炎が起きたのに何も治療を行わなかった患者(対照群の症例報告がないと、外用剤が効いてよくなったのか、それともただ自然によくなったのかは、判断できないというわけです。

観察研究(分析疫学研究)

「観察研究」は、「分析疫学(ぶんせきえきがく)研究」とも呼ばれます。
なんのことだかさっぱりかも知れませんが、「疫学(えきがく)」という言葉には以前触れましたよね。

今回も、日本疫学会のウェブページから「分析疫学研究」の定義を引用させてもらいましょう。

記述疫学などから得られた、関連があると疑われた要因(仮説要因)と疾病との統計学的関連を確かめ、要因の因果性を推定する方法である。仮説の検証を主な目的とする。記述疫学で明確にした4つのW(When, Where, Who, What)をもとに、Whyを追究する。

日本疫学会 「疫学用語の基礎知識」
https://jeaweb.jp/glossary/glossary001.html

「記述疫学」とは上で紹介した「症例報告」などのことです。
つまり、「症例報告」が疾患の様子を詳細に記述することで、原因や治療法について"仮説"を見つける研究であるならば、「分析疫学研究」とはその"仮説"を統計学的な手法をもって検証する研究と言えます。

そして、その代表的な研究の手法が、「症例対照研究」コホート研究」です。

症例対照研究

日本疫学会のウェブページによると、「症例対照研究」の定義は、以下のようになっています。

疾病の原因を過去にさかのぼって探そうとする研究。目的とする疾病(健康障害)の患者集団とその疾病に罹患したことのない人の集団を選び、仮説が設定された要因に曝露されたものの割合を両群比較する。疾病の頻度が低く、症例が母集団の全患者を代表し、対照が母集団を代表する場合はオッズ比(相対危険の近似値)から因果関係の推定が可能。

日本疫学会 「疫学用語の基礎知識」
https://jeaweb.jp/glossary/glossary001.html

つまり、「症例研究」の弱点だった"仮説を検証するために比較対象となる集団(対照群)がいないこと"を克服したのが、この「症例対照研究」なんです。

例えば、複数の「症例報告」から、"洗顔の回数が少ないとニキビを発症しやすくなる"という仮説が立てられたとします。
「症例対照研究」では、ニキビを発症した集団(患者群)ニキビを発症していない集団(対照群)を設け、両方の集団に対して"普段どのくらいの頻度で洗顔をしているか"を調査するわけです。

1日あたりの洗顔回数の平均が、患者群で1回、対照群でも1回だった場合、洗顔の回数はニキビの発症に関係ないかもしれません。
しかし、患者群で1回なのに対して、対照群で2回だった場合、"洗顔の回数が少ないこと"がニキビ発症と関係があるということが分かるわけです。

とはいうものの、「症例対照研究」にも弱点はあります。
それは、患者群や対照群を集めて、その原因となりうる要因(上の例で言えば洗顔の回数)について過去にさかのぼって調査するため、対象者が過去のことを鮮明に覚えおらず、調査の質自体が低くなる懸念がある点です。
こうした調査結果の"ゆがみ"のことを「思い出しバイアス」と呼び、「症例対照研究」"研究の質"が低い一因となっています。

コホート研究

「症例対照研究」の弱点を克服したのが、コホート研究」です。
例によって、まずはその定義をみてみましょう。

調査時点で、仮説として考えられる要因を持つ集団(曝露群)と持たない集団(非曝露群)を追跡し、両群の疾病の罹患率または死亡率を比較する方法である。また、どのような要因を持つ者が、どのような疾病に罹患しやすいかを究明し、かつ因果関係の推定を行うことを目的としている。

日本疫学会 「疫学用語の基礎知識」
https://jeaweb.jp/glossary/glossary001.html

過去にさかのぼって疾患の要因を調査する「症例対照研究」とは反対に、コホート研究」では調べたい疾患の要因をもつ集団と、調べたい疾患の要因をもたない集団を設け、その後疾患を発症するかどうかを(過去ではなく)未来に向かって追跡調査する、という手法をとります。

例えば、洗顔を1日に1回しかしない集団と、1日に2回以上する集団について、"どの程度の割合の人がニキビを発症するか"を1年にわたって追跡調査したとします。

両方のグループで4割の人がニキビを発症した場合、1日あたりの洗顔の回数はニキビの発症に関係ないかもしれません。
一方で、洗顔を1日2回以上するグループでのみ1割しか発症しなかったとすれば、洗顔をすることでニキビの発症を防げた可能性があると考えられるわけです。

コホート研究」ではこのように、あらかじめ要因(この例で言えば洗顔の頻度)に基づいてグループ分けを行うので、思い出しバイアスを排除できる強みがあるわけです。

しかしながら、コホート研究」にも弱点があります。
それは「交絡因子(こうらくいんし)」の排除が難しいことです。

たとえば、普段から洗顔を1日に2回以上する人は、几帳面な性格のために食生活に気をつける傾向が強く、チョコレートなどの脂肪分の多いものを摂取しない傾向が強いかもしれません。

すると、洗顔の回数ニキビの発症見かけ上の因果関係はありそうでも、じつは"脂肪分の少ない食生活がニキビの発症が少ない本当の要因だった"ということもあり得ますよね。
この例で言う"脂肪分の少ない食生活"のような隠れた背景の違いのことを「交絡因子」と呼びます。

このようにコホート研究」には、仮説として設定した要因に注目しすぎるあまり、背後にある別の要因の影響を排除できないデメリットもあるんです。

介入研究

さて、先ほど紹介した「観察研究」では、基本的には被験者の症状や行動などを観察するだけで、試験的に薬を服用してもらったり、意図的に生活様式を変えてもらったりはしませんでしたよね。

これに対して、被験者に投薬したり、行動変容を促したりして、疾患の経過や発症率を調べる手法「介入(かいにゅう)研究」と言います。
つまり、言葉のとおりですが、意図的に被験者の生活に"介入"し、その影響を調べるわけです。

「観察研究」と違い「介入研究」では、被験者の年齢や性別、食生活や趣味嗜好に関わらず、"介入"を行うグループ(介入群)"介入"を行わないグループ(対照群)に分けられるので、被験者の個人的な背景の影響を受けにくいというメリットがあります。

非ランダム化比較試験(非無作為比較試験)

「非ランダム化比較試験」では、医師や試験担当者などが恣意的に介入群対照群に分け、その疾患の経過や発症率を両群間で比較します。

被験者の希望(試験において介入を受けたいかどうか)を聞くことができるため、倫理的な問題も少ないことがメリットとして挙げられます。
その反面、グループ間での性質の偏り(選択バイアス)が生じやすくなるなどのデメリットもあり、"研究の質"は比較的高いものの最高とまでは言えません。

例えば、ある疾患の治療薬の効果を調べる比較試験において「介入を受けたい」と希望した人たちは、もともと体力に自身があるかもしれません。
そうすると、仮に介入群で薬の効果が見かけ上認められたとしても、介入を受けた人たちの自然治癒力がもともと高かっただけという可能性も考えられるわけです。

ランダム化比較試験(無作為比較試験)

「非ランダム化比較試験」で生じやすい選択バイアスを克服したのが「ランダム化比較試験」です。

「ランダム化比較試験」では、被験者を介入群対照群に、コンピューターなどを用いて完全にランダムに(無作為に)分けます。
つまり、「非ランダム化比較試験」のように、医師や試験担当者が恣意的にグループ分けをすることはできないため、選択バイアスが生じることはまずないんです。

したがって、「ランダム化比較試験」は、数ある研究手法の中でも最も質が高いと考えられています。
新しい薬や治療法の効果を評価する際に採用される手法も、大抵はこの「ランダム化比較試験」です。

ランダム化比較試験(無作為化比較試験)のメタ解析

最も質の高い研究として知られる「ランダム化比較試験」
でも実は、上には上がいるんです。

それが「ランダム化比較試験のメタ解析」と呼ばれる研究の手法です。
名前が長いので、便宜的に「メタ解析」と呼ばせてもらいますね。

実はこの「メタ解析」という研究では、被験者を集めた試験は一切行われません。
では何をするかというと、「ランダム化比較試験」などの複数の質の高い研究を集め、それらを全部ひっくるめて統計学的に再度解析することで、複数ある「ランダム化比較試験」の総合評価を行うというわけです。

 

*1:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018. 日本皮膚科学会雑誌 128, 2431–2502 (2018)。

診療ガイドラインとは?

カモノハシさん!
アトピーについてだいぶ勉強してきたし、そろそろ治療法治療薬についても教えてくれないかな?

シバイヌくん、こんにちは。
確かにそろそろ診療の現場で実際に行われている治療法や、処方されている治療薬について知りたいところですよね。
でも治療法治療薬について具体的に紹介する前に、まずはアトピー性皮膚炎の「診療ガイドラインについて説明させてください。

アトピー性皮膚炎の診療ガイドラインって、よくカモノハシさんが引用している医療関係者向けに治療の指針が記述された文書のことだよね?
その診療ガイドライン治療法治療薬とどう関係あるの?

それが、とても関係あるんです。
今回は、診療ガイドラインの成り立ちの経緯から、最新のガイドラインの策定に至るまでを追うことで、これからアトピー性皮膚炎の治療法治療薬を学んでいくための下準備をしましょう!

 

診療ガイドラインの歴史

 

シバイヌくん、突然ですがここで問題です。
日本皮膚科学会が初めてアトピー性皮膚炎のガイドラインが策定したのは、いつ頃のことだったでしょうか!?

どうしたの、急に?
うーん、アトピーっていう病名が提案されたのも 1933 年だったって、カモノハシさんが前に言ってたよね?
そうすると、治療の指針ができあがるのは 1960 年代とか、1970年代ごろかな?

シバイヌくん、素晴らしい推測です。
そして、アトピー性皮膚炎の歴史について、よく覚えていましたね。
でも残念ながら、正解はなんと 西暦 2000 年なんです!

え!?
そんなに最近のことなの!?

プロ意識の高い皮膚科医の時代(1970 年代)

ところでシバイヌくん、ステロイド外用薬って知っていますか?

うん、皮膚科にいったらよくもらう薬だよね?
それが診療ガイドラインとどう関係あるの?

じつは、診療ガイドラインが策定された背景には、ステロイド外用薬の存在が大きく関わっているんです。これについては、金沢大学皮膚科前教授の竹原和彦氏の報告*1に詳しく記述されているので、この内容に則って説明していきますね。

ステロイド外用薬とは、一言で言うと、皮膚の炎症を抑える塗り薬です。
アトピー性皮膚炎は皮膚の炎症を伴う疾患だったため、1950 年代から炎症を鎮める作用(抗炎症作用)のあるステロイドを、塗り薬(外用薬)として応用する研究がさかんになりました。

そして、1970 年代には様々な強さのステロイド外用薬が誕生し、これらのステロイド外用薬を使い分けられるプロ意識の高い皮膚科医が、アトピー性皮膚炎の治療を適切に行っていたそうです。
竹原氏の言葉を借りれば、この頃は「バラ色の時代」でした。

ステロイド外用薬の乱用と反省の時代(1980 年代)

しかし、「バラ色の時代」はそう長くは続きませんでした。
これには、ステロイド外用薬の副作用の発生が大きく関係しています。

実は、プロ意識の高い皮膚科医の影で、一部の未熟な医師たちによるステロイド外用薬の乱用が起こっていました。
彼らは、ステロイド外用薬を万能薬のようにとらえ、軽微な炎症に強いステロイド外用薬を選択したり、炎症のない皮膚疾患にステロイド外用薬を処方したりしていました。

その結果として、ステロイド外用薬による副作用が頻発し、1983 年には初のステロイド訴訟も起こりました。
これをきっかけとして、ステロイド外用薬の副作用に関して、社会的にも関心が集まるようなります。

ステロイドバッシングの時代(1990 年代)

ステロイド外用薬の乱用については皮膚科医側からの反省もあり、副作用の発生自体は 1980 年代以降、稀(まれ)になっていました。
本来、ステロイド外用薬は、適切に使われてさえいれば副作用が起こることは滅多にないためです。

しかしながら、世間ではメディアや患者団体によるステロイド外用薬の悪魔化が進みました。
1992 年のテレビ朝日の報道番組『ニュースステーション』での特集を頂点として、ステロイドバッシングが起こっていったのです。

その結果として、医療の現場では適切な強さのステロイド外用薬の使用さえも避けられるされるようになります。
そして、ステロイド」といった民間療法などの、科学的に根拠のない代替治療が蔓延していきました。この中には、アトピービジネス」と呼ばれる悪質なものも含まれていました。

こうした混迷の中で、日本皮膚科学会は 2000 年に初めて、標準的なアトピー性皮膚炎治療に特化した「指針」として、アトピー性皮膚炎治療ガイドラインを作成し、診療に携わる医療関係者に向けて公開しました。
そして、このガイドラインの中に、ステロイド外用薬を用いた標準的な治療法が明記されたわけです。

 

なるほど!
ガイドラインの策定までには、ステロイド外用薬の発明②その乱用による副作用の発生③メディアのステロイドバッシングによる治療法の混乱っていう複雑な経緯があったんだね。

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018

 

診療ガイドライン策定の歴史に触れたところで、現在公開されている最新のガイドラインに触れていきますね!

よくカモノハシさんが引用しているガイドラインは、2018 年に策定されたものだったよね?

現在、日本皮膚科学会のウェブページで公開されているアトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018*2は、日本皮膚科学会と日本アレルギー学会が共同で策定した、日本語で閲覧できるものの中では最新のガイドラインです。

ガイドラインの作成には各大学の医学部で教鞭を執る医師が多く参加し、これまでに蓄積されてきた医学的な研究成果に基づいた内容となっています。
このガイドラインの立ち位置について、簡潔に記述されている箇所が冒頭にあるので、それを引用させてもらいますね。

ガイドラインに記された医療行為に関する記載 は,evidence-based medicine(EBM)の観点から,現時点における日本国内のアトピー性皮膚炎の治療方針における目安や治療の目標など診療の道しるべを示すものであり,診療の現場での意思決定の際に利用することができる.

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018. 日皮会誌 128 (12), 2431 - 2502, 2018

 

「evidence-based medicine (EBM)」ってなに?
どうして突然英語が出てくるの?

これは失礼しました!
「evidence(エビデンス)」とは「証拠」「根拠」「based(ベイスド)」「(なにかに)基づいた」「medicine(メディスン)」は「薬」という意味もありますが、ここでは「医療」という意味になります。

つまり、「evidence-based medicine (EBM)」とは「根拠に基づいた医療」という意味です。
ここでいう「根拠」とはもちろん、「科学的根拠」のことですよね。

医師がアトピー性皮膚炎の診療を行う際に参考にできるように、科学的に信頼性の高い情報に基づいて作成した診療指針が、本ガイドラインというわけです。

 

ちょっとまって!
ということは、お医者さんは必ずしも、このガイドライン通りに診療を行わなくても良いということ?

よく気が付きましたね!
実はシバイヌくんの言う通りで、医師は必ずしもこの診療ガイドラインを守らなければならないわけではないんです。

診療ガイドラインは基本的に、医師や看護師、また製薬会社などの医療関係者に向けて策定されるものであって、特に医師にとっては診療の「道しるべ」となります。
とはいえ、医師には自信で患者の治療法を、患者に相談したうえで決定する裁量があるため、かならずしもこれを守らなければならないというわけではないんです。
この考え方は、実はガイドライン自体にも明記されてるんですよ。

診療ガイドラインは,症例毎の事情を踏まえて行われる医療行為の内容がここに記載されているものと異なることを阻むものではなく,医療者の経験を否定するものでもない.

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018. 日皮会誌 128 (12), 2431 - 2502, 2018

診療ガイドラインはあくまで、現時点で最も信頼できる情報に基づいた「指針」に過ぎません。残念ながら、このガイドラインに従ってさえいれば、すべての患者の症状を改善できるというわけではないのです。
中には、ガイドラインに記載された標準治療だけでは快方に向かわない症例もあるため、そこから先の治療はそれぞれの医師の経験と洞察に委ねられます。

また、ときには医師が前例のない治療を行い、それが新たな発見につながることもあります。こうした医学の進歩の可能性を残すためにも、治療における医師の裁量は尊重されているわけなんです。

つまり、ガイドラインとは、あくまでもある時点におけるガイドラインであって、それを更新し続けるために新たなエビデンス(=科学的根拠)を蓄積するのも医師の役割というわけです。

 

なるほど!
お医者さんには治療方法を決める裁量があるから、治療がガイドラインに沿わないこともあるってことは、頭に入れておいたほうがよさそうだね。

 診療ガイドラインとサイエンスコミュニケーション

 

でもガイドラインって、お医者さんや看護師さん、あとは製薬会社の研究者みたいな、医療関係者向けに書かれているんだよね?
そうすると、一般の人にはちょっと難しそうだね。

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018は、日本皮膚科学会のウェブページ上で公開されているため、誰でもアクセスすることはできます。

ガイドラインにはステロイド外用薬への誤解を解説する箇所も含まれているため、一般の方にも有益な内容となっています。
しかしながら、あくまでも医療関係者向けに策定されているため、どうしても専門用語が多く、一般の方が読解するには難しいかもしれません。

医師が患者一人ひとりに対して、ガイドラインの内容を噛み砕いて説明できれば問題ないかも知れませんが、医師が患者一人にかけられる診療時間を考えると、やはり現実的ではないかもしれません。

そこで、サイエンスコミュニケーション(科学コミュニケーション)の出番です。

サイエンスコミュニケーションとは、「科学者と科学者でない人たちとのコミュニケーション」のことです。

わたしのような医療従事者のはしくれでも、専門用語で溢れる診療ガイドライン英文の論文を読んで理解することはできます。それらの内容を、このブログを通して一般の方にも分かりやすく紹介していくことで、アトピー性皮膚炎の病態や治療法への理解を促し、医師と患者との間にある溝(みぞ)を埋めることができれば、と考えているわけです。

 

たくさんのエビデンス(=科学的根拠)が積み上げられた末に策定されたガイドラインだからこそ、サイエンスコミュニケーションを通して一般の人にも理解してもらうことが重要というわけだね!

これからも診療ガイドラインを中心に、治療法や最新研究について、分かりやすく伝えていこうと考えているので、どうぞよろしくおねがいします!

 

まとめ

 

*1:竹原和彦:ステロイド外用薬の悪魔化とアトピービジネス. アレルギー 50 (8) 654 - 656, 2001

*2:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018. 日本皮膚科学会雑誌 128, 2431–2502 (2018)。

アトピーの疫学 〜有症率と重症度〜

それにしても、どうして僕ばっかりアトピーになってしまったんだろう。
僕のまわりでは他に誰もアトピーを患っていないのになあ。

シバイヌくん、元気なさそうですね。
確かに、まわりに同じ境遇のひとがいないと、余計に気分が落ち込みますよね。

カモノハシさん。
それにしても、だいたいどれくらいのひとがアトピーを患ってるものなのかな?

シバイヌくん、実はアトピー性皮膚炎の有症率(ゆうしょうりつ)については、さまざまな調査がなされていますよ。
いい機会なので、今日はアトピー性皮膚炎の疫学(えきがく)について、一緒にみていきませんか?

有症率?
疫学?

 

疫学とは?

まず、「疫学(えきがく)」という言葉を説明する必要がありますね。
これについては、日本疫学会が詳しい定義をウェブページ上で公開しているので、そちらから一部を抜粋させてください。

疫学とは、「明確に規定された人間集団の中で出現する健康関連のいろいろな事象の頻度と分布およびそれらに影響を与える要因を明らかにして、健康関連の諸問題に対する有効な対策樹立に役立てるための科学」と定義される。

日本疫学会 「疫学用語の基礎知識」
https://jeaweb.jp/glossary/glossary001.html

 

冬になるとインフルエンザが流行るので、全国で感染者が何人出たか発表されますよね。
身近な例で言うと、あれも「疫学」です。

なるほど、聞いたことない言葉だったけど、意外と身近なものだったんだね!

「疫学」における研究の基本は、ある疾患がいつ(年代・季節)どこで(国・地域)だれに(年齢・性別・職業・人種)どのように(症状の特徴・重症度)どうして(何がきっかけで)起こったのかを詳細に調べることです。
このような調査を行うことで、疾患が出現するための共通の条件を洗い出し、これを疾患の原因解明や、発症を防ぐための対策に役立てることが出来るようになるわけです。

アトピー性皮膚炎を例にして説明してみましょう。
複数のアトピー性皮膚炎患者さんを対象とした調査により、「冬」「お風呂のあと」に皮膚がかゆくなるという、一貫した症状の傾向が結果として得られたとします。
これをもとに、疫学研究を行う医師や研究者は、疾患の原因となりうる要素(例;肌の乾燥)効果が期待される対策(例;保湿剤を使う)を推測することができるわけです。

つまり、「疫学」とは、ある集団内において特定の疾患をもつ人の割合(有症率)や症状の程度(重症度)などを明らかにすることだけではなく、それをもとに疾患の原因を解明したり、対策を確立したりするのに必要な「手がかり」を得ることも目的とする学問なんです。

とはいうものの、この記事の目的は「日本にアトピー性皮膚炎の患者がどの程度いるのか」を解説することなので、以降は「有症率」「重症度」に絞って説明を続けていきますね。

アトピー性皮膚炎の有症率

「有症率(ゆうしょうりつ)」とは、調査対象の集団に占める、ある疾患をもつ人の割合のことです。
割合なので、パーセント(%)で表されます。

例えば、 10 の集団を調査して、そのうち 1 人アトピー性皮膚炎であった場合、アトピー性皮膚炎の「有症率」1 / 10 = 10 % となります。

とはいえ、日本人全体(約 1 億人)に占めるアトピー性皮膚炎患者の有症率を調べるために、国民全員を調査するのはとても大変ですよね。
そこで重要になるキーワードが、「母集団(ぼしゅうだん)」「標本(ひょうほn)」です。

「母集団」とは、調査したい対象全体のことです。
この例で言えば、約 1 億人の日本人全員ということになります。
これに対して「標本」とは、そこから選んできた実際に調査を行う対象の一部を指します。
この例で言えば、一部の日本人ということになります。
十分な数の「標本」を調査すれば、「母集団」と同等の結果が得られる、という考えに基づいて、標本の調査が行われるわけです。

 

なるほど、母集団有症率を調べるために、十分な数の標本を母集団から選び出して調査するんだね。
ところで、十分は標本の数っていうのは、具体的にどれくらいなの?

シバイヌくん、とっても重要な質問です。
妥当(だとう)な標本の数は、行う調査の内容によって複雑な計算をして決定します。
とても難しいので、ここでは詳しく説明しませんが、実際に行われた疫学調査の結果を参照しつつ、その標本数も確認していきましょう。

年代別の有症率

日本皮膚科学会が策定した『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018』には、国内における各年代別の有症率が詳しく記されています*1
このデータをもとに棒グラフを作成してみました。

アトピー性皮膚炎の有症率は、 4 か月児から 30 代までは 10 % 前後を推移しています。
その後、40 代、50 〜 60 代になると、大きく減少するようです。
つまり、アトピー性皮膚炎は乳幼児から 30 代くらいまでの若い年齢層に多い疾患で、有症率はだいたい 10 %くらいである、ということがこのグラフから読み取れますね。
標本の数は、各年代ごとに 1000 人〜 10000 人前後です。

 

アトピーって子どもに多いイメージがあったから、20 代や 30 代でも 10 % ちかくの人が患ってるっていうのには驚いたよ。
それに、1000 人〜 10000 人っていうすごい人数を調査してるなら、信頼できそうだね!

調査によっては、診断の手法が違ったり、標本の属性(地域や職業など)が違ったりすることで、同じ内容の調査でも結果にばらつきが生じることはあります。
ただ、ガイドラインに記載されているデータなので、大まかには正しいと考えてよいのではないかと思います。

地域別の有症率

日本の中でも、地域によってアトピー性皮膚炎の有症率に違いはあるのでしょうか。

日本医科大学で皮膚科の教授を務める佐伯秀久氏らは、2005 年に全国の小学生を対象としてアトピー性皮膚炎の有症率を調査しました*2
調査の対象となったのは、北海道、岩手、東京、岐阜、大阪、広島、高知、福岡の 8 都道府県で、標本数はそれぞれの地域で 2500 人〜 3500 人でした。
以下に、調査結果をまとめた図をお示ししますね。

いずれの都道府県においても、有症率は 10 % 前後であることが分かります。
意外かもしれませんが、アトピー性皮膚炎の有症率は、北海道や東北地方の寒冷な地域で高いわけではなく、実は日本全国で有症率に大きな差はないんです。
また、最も有症率の高い福岡と、最も低い岩手の間では 2 倍近くの差がありますが、これは気候による違いというよりも、都市部と地方の違いによるものではないかと考えられているようです。

 

確かに福岡で有症率が高いっていうのは意外だけど、基本的には地域ごとに大きな差があるわけではないと考えたほうがいいんだね。

この報告によると、他の都道府県と比べて、福岡では調査への参加率が非常に低かったようで、それが理由で結果に偏りが生じたのではないかとも考えられています。
いずれにせよ、日本の中で大きな地域差はないということですね。

アトピー性皮膚炎の重症度分布

さて、ここまでは「有症率」、つまり「どれくらいの人がアトピー性皮膚炎を罹患しているか」について説明してきました。

ここからは「重症度分布(じゅうしょうどぶんぷ)」、つまりアトピー性皮膚炎を罹患しているひとの中で、症状の程度(軽症・中等症・重症・最重症)がどれくらいの割合で存在しているか」についてみていきましょう。

重症度の分類

「重症度分布」について説明する前に、アトピー性皮膚炎では、「重症度」がどのように分類されているか知る必要がありますね。
アトピー性皮膚炎では、重症度を「軽症」「中等症」「重症」「最重症」の4段階に分類します。
それぞれが実際にどのような病状を表すかを詳しく知るために、ここでも『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018』を参照してみましょう。

アトピー性皮膚炎重症度のめやす


軽症:面積にかかわらず,軽度の皮疹のみみられる.


中等症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の 10% 未満にみられる.


重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の 10% 以上,30% 未満にみられる.


最重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の 30% 以上にみられる.


*軽度の皮疹:軽度の紅斑,乾燥,落屑主体の病変
**強い炎症を伴う皮疹:紅斑,丘疹,びらん,浸潤,苔癬化などを伴う病変

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018. 日皮会誌 128 (12), 2431 - 2502, 2018

 

うーん、分かったような、分かってないような。
「軽度の皮疹(ひしん)」
「強い炎症を伴う皮疹」の区別が難しい・・・

ここで「強い炎症を伴う皮疹」を説明するキーワードとなっている「紅斑(こうはん)」「丘疹(きゅうしん)」「びらん」「苔癬化(たいせんか)」などの、皮膚病変の様子を表すための言葉について、詳しく説明したほうがよさそうですね。

皮膚病変の様子

・紅斑(こうはん)
炎症に伴う毛細血管の拡張などによって、皮膚表面が赤くなる状態のこと。軽症の患者にも、軽度の紅斑が認められることがある。

・丘疹(きゅうしん)
皮膚の赤みに加えて、平らな皮膚から少し盛り上がった病変のこと。中等症の患者に少数みられ、重症以上になると多くみられるようになる。

・びらん
掻破(そうは)を繰り返した結果、皮膚がむけてしまった状態。ジクジクした表面の様子が特徴。重症以上の患者に多くみられる。

・苔癬化(たいせんか)
「びらん」のような状態が長く続いた結果、防御反応として皮膚がごわごわと厚くなった状態重症以上の患者に多くみられる。 

アトピー性皮膚炎に伴う皮膚病変の様子を表す専門用語はこの他にもありますが、まずはこのあたりを理解出来れば、「軽症」「中等症」「重症」の皮膚病変について、なんとなくイメージできるのではないでしょうか。

 

うん、難しいけど、すこし分かってきたよ。
僕は「丘疹」「びらん」「苔癬化」はなさそうで、関節の裏側が乾燥してかゆいだけから、多分「軽症」だと思うな。

当然ですが、病変の様子は皮膚科を受診して判断してもらうのが一番確実です。
くれぐれも自身で重症度を判定したり、治療方針を独断で決めてしまったりするのは避けてくださいね。

 年齢別の重症度分布

アトピー性皮膚炎の重症度は4つに分類され、これらは主に皮膚病変の質と量によって異なることが分かりました。

では、アトピー性皮膚炎患者の中で、それぞれの重症度がどのような割合で分布しているのか、有症率の時と同様に、年代別にみていきましょう。
以下に、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018』に記載された調査結果に基づいて、作成した棒グラフを示しますね。

実はいずれの年代においても、アトピー性皮膚炎を患うほとんどの方は「軽症」なんです。
そして、「中等症」、及び「重症以上」の割合は、いずれの年代でも低いものの、学童期から 30 代頃までの間で、やや大きくなるようです。

 

アトピー性皮膚炎といえば乳幼児期に多いイメージだけど、中等症や重症のひとが多いのは 10 代から 30 代の若い世代なんだね。

そうですね。
とは言っても、若い世代の中でも大部分は軽症なんです。
アトピー性皮膚炎は重症化する前に、標準的な治療で症状を抑えることが大事ですね。

まとめ

  • アトピー性皮膚炎の有症率は、乳幼児期から 30 代まで約 10 % 程度
  • アトピー性皮膚炎の有症率に、大きな地域差はない
  • アトピー性皮膚炎患者の大部分は軽症

 

*1:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018. 日本皮膚科学会雑誌 128, 2431–2502 (2018)。

*2:Saeki, H. et al. Prevalence of atopic dermatitis in Japanese elementary schoolchildren. Brit J Dermatol 152, 110–114 (2005).

アトピーの病態生理とは?

アトピーの症状や経過は患者さんごとに違うってことは何となく分かってきたけど、アトピーってどうしてこんなにも複雑な病気なんだろう?

シバイヌくん、とても良い質問です。
その答えのヒントは、アトピーの「病態生理(びょうたいせいり)」にあるかもしれませんよ。

カモノハシさん!いきなりで申し訳ないけど、「病態生理」ってどういう意味?

おっと、これは失礼。
ではまず、「病態生理」という言葉から説明していきますね。

病態生理とは?

「病態」とは、「病気の様子」「生理」とは、ある生命現象の根底にある仕組みを意味します。つまり「病態生理」とは、「ある病気の症状ができあがる仕組み」と言い換えることができるでしょう。

例えばインフルエンザは、インフルエンザウイルスが鼻や喉の粘膜に感染して、ウイルス自体がそこで増殖した結果、発症しますよね。
この、ウイルスが感染し、発症して悪化する仕組みのことを「病態生理」と言います
インフルエンザの病態生理が明らかになっているおかげで、インフルエンザワクチンをつくることができるようになり、手洗いやうがいが感染を防ぐのに効果的であることも分かったわけです。

というわけで、アトピー性皮膚炎の症状の複雑さや、治療法の意味を正しく理解するためにも、「病態生理」を知ることはとっても重要なんです。

アトピー性皮膚炎の病態生理

それではまず、日本皮膚科学会が作成したアトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018』*1を参照してみましょう。
アトピー性皮膚炎の病態生理について、ガイドラインには以下のように記述されています。

アトピー性皮膚炎は多病因性の疾患である.アトピー素因(体質)とバリア機能の脆弱性等に起因する皮膚を含む臓器の過敏を背景に,様々な病因が複合的に関わる事がアトピー性皮膚炎の病態形成に関与する.それら病因間にヒエラルキーのないことがアトピー性皮膚炎の症状や表現型の多様性に貢献する. 

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018. 日皮会誌 128 (12), 2431 - 2502, 2018

 

うう、やっぱりガイドラインの文章は難しい・・・
正直に言って、全然分からなかったよ。

シバイヌさん、大丈夫です。ガイドラインはそもそも医療関係者に向けて作成されているため、一般の方には分かりにくくて当然なんです。
一緒にゆっくりと読み解いていきましょう!

多因子疾患としてのアトピー性皮膚炎

先ほどのガイドラインの記述は専門的である分、どうしても難しく感じられますね。
でも、押さえておいてほしいのは「アトピー性皮膚炎とは1つの原因で発症するわけでなく、様々な要素が複雑に絡み合って発症に至る」ということです。
このような疾患のことを、「多因子疾患」と言います。

ガイドラインを参照すると、その発症や悪化に関わる因子の多様さがよく分かると思います。

病態を考える際、発症と悪化に関わる要因を考慮しなくてはならない.治療へのアドヒアランスはもとより,職場および日常生活環境における抗原や刺激物への曝露,ライフスタイルと温度や湿度といった環境因子,皮膚の生理機能の変調は皮膚炎の維持および増悪に関わる.アトピー性皮膚炎の痒みの誘発・悪化因子として温熱,発汗,ウール繊維,精神的ストレス,食物,飲酒,感冒などが特に重要とされる. 

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018. 日皮会誌 128 (12), 2431 - 2502, 2018

発症や悪化にかかわる因子がたくさんありすぎる!
いったいどれが重要なの!?

シバイヌくんの言う通りで、さすがにこれらの因子をすべて説明しても、病態生理の理解はなかなか進みません。
そこで、今回は「三位一体病態論(さんいいったいびょうたいろん)」という学説を参照することで、アトピー性皮膚炎の病態生理を説明をしていきますね。

「三位一体病態論」!?
なんだかよくわからないけど、すごそう・・・

三位一体病態論

京都大学医学部にて皮膚科学教室の教授を務める椛島(かばしま)健治氏は、「バリア機能異常」「アレルギー炎症」「かゆみ」3要素に着目した、アトピー性皮膚炎の「三位一体病態論」を提唱し、世界的に広く受け入れられています*2

アトピー性皮膚炎の複雑な病態は、以上にあげた3つの要素に注目して整理しつつ考えると、格段に理解しやすくなるんですよ。
それでは、順番に見ていきましょう。

① バリア機能異常

 

「バリア機能」ってどこかで聞いたことある気がするんだけど、どういう意味なんだっけ?

バリア「障壁(しょうへき)」「防御壁(ぼうぎょへき)」を意味する言葉ですよね。
皮膚は、異物が体の中に侵入したり、水分が体の外へもれ出てしまうのを防ぐ「防御壁」として働いています。
これを皮膚の「バリア機能」と呼んでいます。

皮膚は、体の表面の「バリア機能」を引き受けていて、その総面積の大きさから、「人体最大の臓器」なんて呼ばれることもあります。
それでは、まずは皮膚の断面の模式図を見てみましょう。

皮膚は大きく分けて、表皮(ひょうひ)真皮(しんぴ)と呼ばれる組織から成り立っています。
表皮はさらに、外側から角層(かくそう)顆粒層(かりゅうそう)有棘層(ゆうきょくそう)基底層(きていそう)の4種類の細胞層で構成されていて、いずれの層も、表皮細胞と呼ばれる皮膚の細胞が集まってできたものです。
表皮細胞の中でも分裂するのは基底層の細胞だけで、その中の一部の細胞が外側の有棘層顆粒層角層へと徐々に移動し、最後は垢(あか)となってはがれ落ちます。

4つの層のなかでも、いちばん外側の角層は、皮膚の「バリア機能」にとっても重要です
角層の表皮細胞(=角層細胞)はとても頑丈にできているだけでなく、細胞と細胞の隙間(すきま)は、セラミドコレステロールなどの「細胞間脂質(さいぼうかんししつ)」で満たされているため、この構造は「れんがとモルタルに例えられるほどしっかりしたものなんですよ。
つまり、角層細胞と細胞間脂質でできた「角層」はバリア機能の最前線として、体内への異物の侵入や水分の漏出(ろうしゅつ)を防いでいるわけです。

ところが、乾燥した環境や、洗浄剤物理的な刺激などにくり返しさらされたり、角層にとって大切なフィラグリンという遺伝子の変異(へんい)があったりすると、角層が脆(もろ)くなって、結果としてバリア機能が弱まってしまうことがあります。
このような現象を、「バリア機能異常」と呼びます。
バリア機能異常が起こると、異物(=抗原)が角層を通過し、皮膚の深部に侵入しやすくなった結果、「アレルギー炎症」が起きる可能性が高まります。

 

なるほど、つまり角層が皮膚のバリア機能にとっても重要で、これが壊れてしまうと、外から異物が皮膚の奥に入って来やすくなるってことだね。
ところで、フィラグリン」遺伝子がバリア機能に大切っていうのは分かったけど、このフィラグリンは皮膚でどんな働きをしているのかな?

シバイヌくん、もっともな質問をありがとうございます。
詳しく説明したいところですが、病態生理の説明から脱線してしまいそうなので、「フィラグリン」については別の機会にしっかりと時間をかけて説明させてください
それでは、次の「アレルギー炎症」について説明していきますね。

② アレルギー炎症

バリア機能が弱まった角層を、主にタンパク質からなる外来の抗原が通過すると、皮膚の深部で様々な免疫細胞が活性化します。
そのなかでも、「アレルギー炎症」で中心的な役割を果たすのが「2型ヘルパーT細胞(=Th2 細胞)」と呼ばれる免疫細胞です。

外来抗原の侵入によって活性化した Th2 細胞は、「サイトカイン」と呼ばれる小さなタンパク質を分泌します。
次に、「B 細胞」と呼ばれる抗体をつくるのが専門の免疫細胞が、このサイトカインを受け取ることで活性化して、アレルギーと関連の強い IgE 抗体を大量につくりだし、これがアレルギー炎症を引き起こします。
つまり、バリア機能異常が起きた皮膚では、Th2 細胞が中心となって、IgE の産生を伴うアレルギー炎症が生じるというわけです。

 

Th2 細胞サイトカインB 細胞・・・名前を覚えるだけで大変そうだなあ。
でも前回の記事で、アトピーのひとの血中では IgE 抗体の量が多いっていうのは知っていたから、どういう仕組みで IgE がたくさんつくられるのか、なんとなく分かってきたよ。

とくに、「Th2 細胞」と、Th2 細胞が分泌する「サイトカイン」は、アトピー性皮膚炎のアレルギー炎症で中心的な役割をしているため、今後も繰り返し触れていくことになると思います。
皮膚の表面ではなく深部で起きていることなので、いまいちイメージしにくいかもしれませんが、頭の片隅に置いておいてもらえると嬉しいです。
それでは、最後に「かゆみ」について説明しますね。

③ かゆみ

Th2 細胞のサイトカインの刺激よって大量につくられた IgE 抗体は、侵入した抗原とくっつくと、そのまま「肥満細胞」呼ばれるまた別の免疫細胞と結合します。
これによって刺激された肥満細胞は細胞の中にためていたヒスタミンと呼ばれる物質を放出し、これが皮膚の「かゆみ」を引き起こします。

 

ヒスタミンは聞いたことがあるよ。なんか、薬の名前に使われていたような・・・

シバイヌくん、するどいですね。ヒスタミン」は花粉症で起こる「かゆみ」の原因物質でもあるんです。
よって、花粉症の患者さんには、ヒスタミンを抑える「抗ヒスタミン薬」がよく処方されていますね。

そして大切なことは、かゆみははただ不快なだけではないということです。
かゆみに耐えられず皮膚を掻破(そうは)する、つまり「かきむしる」と、こんどは角層が物理的にダメージを受けてしまい、皮膚のバリアが破壊されます。
すると、皮膚の「バリア機能異常」が再び起こってしまいます。

 

ちょっとまって!
すると、「バリア機能異常」「アレルギー炎症」を引き起こして、次に「アレルギー炎症」「かゆみ」を引き起こして、今度は「かゆみ」「バリア機能異常」を引き起こして・・・ってこれ、ぐるぐる繰り返してない?

ご名答!
実はこの繰り返し構造が、アトピー性皮膚炎の病態生理を理解するうえで、とても重要な点なんです!

3要素の相互作用

このように、アトピー性皮膚炎の三位一体病態論では、「バリア機能異常」「アレルギー炎症」を、「アレルギー炎症」「かゆみ」を、「かゆみ」「バリア機能異常」を、連続して繰り返し引き起こすことで、病態をどんどん悪化させていくと考えられているわけです。
したがって、アトピー性皮膚炎の治療は、「バリア機能障害」、「アレルギー炎症」、「かゆみ」の各要素に着目して進めていくことが重要になります。

アトピー性皮膚炎の病態生理はやっぱり難しい

 

ううう、頭がパンクしそうだ・・・
だいぶ分かりやすく整理して話してくれたんだろうけど、やっぱりアトピーは複雑な病気なんだね。

そうですね。
かなり簡略化して説明したので、実はもっと細かい病態生理がたくさんあるんですけど、それはまたの機会にしましょうか。

え、そうなの・・・?
こんな難しい話は、しばらく聞きたくないんだけど・・・
あ、そういえばこの病態生理がどう治療と繋がってくるのかな?

だいぶ長くなってしまったので、治療法についてはまた別の記事で説明しますね。
とりあえず今は、アトピー性皮膚炎の「三位一体病態論」を頭に叩き込みましょう!

・・・・・

 

まとめ 

  • アトピー性皮膚炎の症状や治療法を理解する上で、病態生理を知ることはとても大切
  • アトピー性皮膚炎は多因子疾患で、病態生理は極めて複雑
  • アトピー性皮膚炎の病態生理の要は、「バリア機能異常」「アレルギー炎症」「かゆみ」の3要素(三位一体病態論)

 

*1:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018. 日皮会誌 128 (12), 2431 - 2502, 2018

*2:Kabashima, K. New concept of the pathogenesis of atopic dermatitis: Interplay among the barrier, allergy, and pruritus as a trinity. J Dermatol Sci 70, 3–11 (2013).。

そもそもアトピーとは?

うー、かゆいかゆい・・・

シバイヌくん、どうかしましたか?

カモノハシさん!
最近、肌がかゆくてねえ。
たぶん、アトピーだと思うんだけど。

そうなんですか、かゆいのは辛いですよね。
ところでシバイヌくんは、アトピー、あるいは「アトピー性皮膚炎」ってどんな病気か知っていますか?

うーん、そう言われると、うまく説明できないな。
そもそも、自分がアトピーなのかどうかも自信がなくなってきた・・・

なるほど。
それなら良い機会なので、今回は「そもそもアトピー性皮膚炎とはなにか」について、一緒に見ていきましょう!

 

アトピー」って、どういう意味?

アトピー(atopy)」とは、ギリシャ語の「a-topos」という言葉に由来します*1
意味としては、「場所が特定されていない」「とらえどころのない」「奇妙な」、といったところでしょうか。

アトピー性皮膚炎の歴史は意外に古く、その症例は古代までさかのぼることができると言われています。
とは言っても、少なくとも 20 世紀の中頃までは、それまでに知られていた皮膚病のいずれにも似ていない、かゆみのある湿疹を伴った奇妙な皮膚疾患として、様々な病名がつけられていました*2

そのような中で、アメリカの著名な皮膚科医であったザルツバーガー氏は 1933 年に、それまで報告されてきた症例をアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)」と総称し、この名称が今日まで世界中で使われるようになりました*3

 

「とらえどころのない」って・・・
そんな病名、あるのね。

そうなんです。
患者さんごとに症状や経過が様々だったため、具体的な疾患名を付けるのは難しかったのかもしれませんね。

 日本皮膚科学会によるアトピー性皮膚炎の定義

それでは、日本においては現在、アトピー性皮膚炎はどのような疾患と考えられているのでしょうか。

日本皮膚科学会が作成したアトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018』*4によると、アトピー性皮膚炎は以下のように定義されています。

 

アトピー性皮膚炎は,増悪と軽快を繰り返す瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり,患者の多くは「アトピー素因」を持つ. 

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018. 日皮会誌 128 (12), 2431 - 2502, 2018

 

うーん、難しい・・・
どういうことだろう?

「増悪(ぞうあく)と軽快を繰り返す瘙痒(そうよう)のある湿疹」とは、「症状がひどくなったり、よくなったりするのを繰り返す、痒み(かゆみ)を伴う皮膚の炎症」という意味です。
アトピー性皮膚炎とは、このような皮膚の炎症を主な症状とする皮膚の病気というわけです。 

 

なるほど、たしかに良くなったり悪くなったりするから、やっぱり僕はアトピーなのかも。
でも、アトピー素因って言葉は今まで一度も聞いたことがないなあ・・・。
これはいったい何だい?

アトピー素因(そいん)

「素因」とは、その病気にかかりやすい素質のようなものです。

実は、アトピー性皮膚炎の患者さんの多くが、次のような「アトピー素因」を持つと考えられています。

 

① 家族歴・既往歴

気管支喘息アレルギー性鼻炎, 結膜炎,アトピー性皮膚炎のうちいずれか,あるいは複数の疾患)

② IgE 抗体を産生しやすい素因

アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018. 日皮会誌 128 (12), 2431 - 2502, 2018

 

① 家族歴・既往歴

「家族歴(かぞくれき)」「家族が過去にかかった疾患」「既往歴(きおうれき)」「本人が過去にかかった疾患」という意味になります。
カッコ書きで挙げられている、気管支喘息(きかんしぜんそくアレルギー性鼻炎(花粉症も含む)結膜炎(けつまくえん)アトピー性皮膚炎は、いずれもアレルギー性の疾患として知られていますね。

つまり、これらのアレルギー性の疾患に、家族や本人が過去にかかったことがある場合、「家族歴・既往歴がある」ということになります。

 

そう言えばママは「子供の頃にアトピーで苦しんでいたことがある」って言ってたな・・・

なるほど、そうするとシバイヌくんは「家族歴あり」ですね。
アトピー素因を持っている」ということになります。

② IgE 抗体を産生しやすい素因

 

家族歴と既往歴については分かってきたけど、「IgE 抗体を産生しやすい素因」がまったく分からない・・・
抗体って?そもそも、「IgE」 の読み方が分からない・・・いげ?

 「IgE」 は、そのまま「アイ・ジー・イー」と 読みます。
聞き慣れないアルファベットに戸惑うかもしれませんが、順を追って説明していきますね。

からだの中には、侵入した異物に対処するための「免疫(めんえき)」と呼ばれる仕組みがあり、この中で大切な働きをするのが抗体(こうたい)というタンパク質です。
ある異物が体内に侵入すると、その異物だけにくっつくことができる抗体が体内でたくさん造らます。
すると、同じ異物が再び侵入しても、予めつくられた抗体が速やかに異物にくっついて、これが目印となって免疫細胞が集まり、異物を排除しようとするんです。
これが抗体による免疫の仕組みで、この抗体がくっつく異物のことを抗原(こうげん)と呼びます。

 

なるほど。抗体って、からだを守るために大切なものなんだね。
ところで、IgE 抗体っていうのは、普通の抗体と何が違うの?

IgE (アイ・ジー・イー)抗体とは、抗体の中でもとくに、ダニ、カビ、動物の毛や皮膚、花粉などのタンパク質が抗原として体内に侵入した場合に造られる抗体で、1966 年に日本の石坂公成(きみしげ)氏によって発見されました*5

IgE 抗体も、他の抗体と同じように、免疫に欠かせない抗体です。
しかし、IgE 抗体が必要以上に造られてしまうと、からだの中に侵入してもそれほど問題のない抗原に対しても、免疫が必要以上に働き、排除しようとしてしまうんです。
結果として、喘息では咳(せき)や痰(たん)、花粉症ではくしゃみや鼻水、目の痒み(かゆみ)などが症状として現れます。
こうした過剰な免疫が原因の疾患を「アレルギー」と言います。

つまり、IgE 抗体はアレルギーとの結びつきが強い抗体と言えます。
そして、アトピー性皮膚炎の患者さんの血液中では、IgE 抗体の濃度が非常に高いことが知られていて、それゆえにアトピー素因のひとつと考えられているわけです。

 

ということは、血液中の IgE 抗体の量が少なかったら、アトピーではないってことでいいのかな?

それが、必ずしもそうとは言いきれないんです。
中には、IgE 抗体の量の増加が認められないアトピー性皮膚炎もあるんですよ。このあたりが、アトピー性皮膚炎の難しいところですね。

アトピー性皮膚炎?と思ったら皮膚科専門医へ!

 

カモノハシさん、それで実際のところ、僕はアトピーなのかな?

シバイヌくんの症状は、アトピー性皮膚炎の可能性があると思いますが、アトピー性皮膚炎と診断できるのは医師だけです。
よって、皮膚科専門医の診察を受けてはどうでしょうか? 

皮膚科専門医とは!?

 

皮膚科専門医とは、日本皮膚科学会が設けている皮膚科専門医制度において、言わば皮膚科のプロフェッショナルと認定された医師のことです。
皮膚科医の中でも、日本皮膚科学会に5年以上所属し、かつ皮膚科の指導医のもとで5年以上の研修を終え、試験に合格した医師のみが認定されます。
学会に所属し、診療ガイドラインや最新の研究成果に精通する医師が多いため、アトピー性皮膚炎の診療についても信頼できるでしょう。

なお、全国の皮膚科専門医は日本皮膚科学会のウェブページから検索することができます。
どこの皮膚科を受診されるか迷っている方は、ぜひご活用ください。

まとめ

  • アトピー性皮膚炎の主な症状は、かゆみを伴う皮膚の炎症
  • アトピー性皮膚炎は、良くなったり、悪くなったりを繰り返す
  • アトピー素因は、家族歴・既往歴と IgE 抗体の量
  • アトピー性皮膚炎の診断は皮膚科専門医へ

 

*1:Bergmann K-C, Ring J (eds): History of Allergy. Chem Immunol Allergy. Basel, Karger, 2014, vol 100, pp 81-96

*2:Nishioka, K., 2017. Evolution of Atopic Dermatitis in the 21st Century 3–10.

*3:Sulzberger MB:Historical notes on atopic dermatitis:its names and nature, Seminars in Dermatology 2:1-4,1983

*4:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018. 日皮会誌 128 (12), 2431 - 2502, 2018

*5:Saito, H., Ishizaka, T., Ishizaka, K., 2013. Mast Cells and IgE: From History to Today. Allergol Int, Allergology International 62, 3–12.